IRODORI vol.02
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「新しいジャケットは5年か10年に一度しか買わない人も、一日三度の食事をする。我々が本気で地球を守りたいのなら、それを始めるのは食べ物だ」− イヴォン・シュイナード、パタゴニア創業者なぜ、食品なのか?<パタゴニアとは> パタゴニアは創業者のイヴォン・シュイナードの趣味のクライミングが高じ、自分達が楽しむためのギアを作ったところからスタートしたアウトドア企業だ。自然が大好きで、サーフィンやクライミングをやっていく中で、自然がどんどん荒廃していくのを目の当たりにし、自分たちの愛するアウトドアフィールドを守るため、環境に配慮した製品づくりや、ビジネスを手段に環境を保護する取り組みを行う。1996年には製品に使われている全てのコットンをオーガニックに100%切り替え、2002年からは「1% for the Planet」を共同設立し、その取り組みで売上の1%を草の根の環境団体へ寄付をする活動を続けている。 そういった中で、パタゴニアは気候危機や環境破壊が進んでいく原因の一つが農業であると考えた。その農業を環境問題の「原因」ではなく環境を救う「解決策」にするために農業自体を切り替える必要性があり、農業と直結している食品事業を開始したのがプロビジョンズができた経緯である。<サバの持続可能な漁法について> 自然から恵みを頂くという意味では、農業も水産業も共通している。水産業に関しても、海の資源が枯渇するぐらい獲りすぎてしまっていたり、環境や人体に影響を与える恐れがある薬品を養殖で使っているという課題がある。海のバランスを保つ本当に持続可能な漁業は何かと考える中で、マグロなど絶滅の危機に■する大きな魚ではなく、食物連鎖の下位にいる「より個体数のある豊かな魚を食べて海の生態系を守ろう」ということでサバやアンチョビの取り扱いをしている。豊富にいる群れからサバを獲るのだが、海の生態系を守るために巻き網のような他の魚種も獲ってしまう漁法ではなく、釣り針と赤い糸のみで一本釣りに近い漁法で獲るという、魚種と漁法の両方で持続可能な方法で獲っている生産者のサバをパタゴニア プロビジョンズでは扱っている。また、生産者自体も地元で漁業組合を持っているようなコミュニティに所属している小規模な漁業者や、何代も続く缶詰の加工業者をサポートする形で、家族経営で漁業や加工業に携わっている人々をサポートしている。<今後の展開> パタゴニア プロビジョンズでは2021年12月から初めての日本製品として日本酒を販売している。蔵付き酵母や、自家培養した麹菌で醸し、できる限り手作業で作られる日本酒の製法は、製造過程が環境を修復し「地球を救う」というパタゴニア プロビジョンズのミッションに合致している。これに着目したアメリカ本土・日本支社の希望により、「発酵」によるコレクションをスタートした。日本の伝統文化の日本酒の魅力にアメリカ企業のパタゴニアが光を当てる事を今後注目していきたい。 また、環境問題の原因ではなくて地球を救う解決策になるような食品、かつ美味しくて手軽な食品を引き続き提案していく方針だ。取材・文 : 加藤貴志 スペイン・サントーニャの漁師はタイセイヨウサバの捕獲に、個体数の豊かな群れから1本のラインに最大30個の釣り針を付けた「アンスエロ」と呼ばれる道具を使う。釣り針にはサバが好む小さな甲殻類に似せた赤いウール糸が巻き付けられているため、■は必要なく、他の魚の■を奪うことはない。 サバの群れは非常に大きく、「アンスエロ」では1本の針に1匹しかかからないので、すべてをすくい上げるトロールや巻き網のように混獲はほとんど起こらない。釣り糸と釣り針での漁は、魚が網の底でつぶされることなく1匹ずつ針から外されるため、魚の品質も高くなる。 パタゴニアは伝統的な小型漁船に乗る漁師のコミュニティをサポートしている。毎年春になると、サバは海が銀色になるほどの群れでビスケー湾にやってくる。漁船団は夜明けに出航し、巨大なサバ群れに釣り糸を投げて、1日分の収獲をする。 サバは、桟橋近くの競り市から海岸沿いを氷に乗せられ、パタゴニア プロビジョンズが提携する缶詰業者の〈ペレス・ラフエンテ〉まで運ばれる。収穫からラフエンテ社に到着するまでの時間は、半日という短さだ。 環境と社会の両面に対する持続可能性の重視は、工場の入り口で終わらない。洗って調理された魚は切り身にされ、残骸から水産養殖で使用される魚粉が作られるため、何ひとつ無駄にならない。 その後、切り身は会社が有する70のレシピの1つに従って缶に詰められ、密封、殺菌される。この作業はすべて、ラフエンテ社に雇用されている30人ほどの女性が行う。品質管理を監督するモニカ・シルバはこう語る。「時間とともに近代化されるかもしれませんが、今のところはすべて私たちです」 缶詰がジューシーな理由は魚の表面にある薄い脂肪の層を維持することがとても重要だとも話す。つまり、この女性たちが製品の品質に最終的な決定権を持っていて、繊細な取り扱いが■となっている。https://www.patagoniaprovisions.jp/Amy Kumler(C)2022Patagonia, Inc.13

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